美容室で、髪型をどう頼むか。
薄毛が気になってた頃の僕は、注文の内容がずっと同じでした。
「すかないでください」
これしか言えなかったんです。伝え方って、何が正解なんだろう、とずっと思ってました。
守りのオーダーしかできなかった
薄毛が気になってると、美容室って戦場でした。
椅子に座って、「今日はどうしますか?」と聞かれる。そこで、やりたい髪型なんて頭に浮かばない。頭にあるのは、ひとつだけ。
「これ以上、髪を減らさないでくれ」
だから、注文はいつも守りです。すかないでください。短くしすぎないでください。トップは残してください。全部、減らさないためのお願い。
あと、シャンプーのときも「前髪は優しくお願いします」と頼んでいました。
やりたい髪型を頼むんじゃなくて、今ある髪を守るための交渉。あれは、注文というより防衛戦だったなと。
美容師さんも困ってたと思います。「どうしたいか」じゃなくて「何をしないでほしいか」しか言わない客なので。
そもそも「すく」って何なのか
当時は感覚で「すかないで」と言っていたので、ちゃんと調べてみました。
「すく」というのは、すきバサミ、業界でいうセニングを使って毛量を物理的に減らすこと。内側の毛を間引いて量を調整する技術だそうです。
セニングは、髪を均等に「長い、短い、長い、短い」の状態にする。全体の長さを変えずに、毛量を減らすことに特化した道具、と。
ちなみに、美容師さんのあいだでもセニングは賛否両論のツールらしいです。使い方しだいで、仕上がりが大きく変わるので。
なるほど。薄毛の身としては、たしかに間引かれるのは避けたい。当時の僕の「すかないで」は、方向性としては間違ってなかったわけですね。
「すく」と「軽くする」は違うらしい
これは知らなかったんですけど。
「すく」と「軽くする」は、似ているようで意味が違うそうです。
すく、は物理的に量を減らすこと。一方「軽くする」は、レイヤーを入れてシルエットを軽く見せること。量は減らさずに、動きと印象を変える。
つまり、髪を減らさなくても軽く見せる方法はある、ということですね。
これ、薄毛の人には朗報だと思います。「重たいのは嫌だけど、減らすのはこわい」という状況でも、やりようがあるので。
知らないと「すくか、すかないか」の二択だと思ってしまう。でも実際は、その間にいろんな選択肢があった。
大事なのは「なぜ」を伝えること
調べていて、一番なるほどと思ったのがこれです。
「すいてください」とだけ言うと、かえって膨らんだり扱いにくくなったりすることがある。だから、なぜそうしてほしいのかという背景も一緒に伝えてほしい、と美容師さんが語っていました。
これ、逆も同じだなと。
僕は「すかないでください」とだけ言っていた。でも「薄毛が気になるので、量を減らしたくない」と背景ごと伝えていれば、もっといい提案をしてもらえたはずで。
禁止事項だけ言われても、相手は「なんでだろう」と探るしかない。理由がわかれば、そこに合った方法を出してくれる。
実際、今の担当さんに薄毛のことをちゃんと話してからは、提案の質がまるで変わりました。「じゃあ、こうしましょうか」が出てくるようになった。
オーダーのコツって、要望を言うことより、事情を共有することなのかもしれません。
調べていたら、実用的なオーダーのコツも出てきました。
毛量を減らしたいけど失敗したくない場合、「たくさんすいて」ではなく「量は減らしたいけど根元からすかないで」「表面はすきすぎない程度に」といった伝え方がいい、と。
まず美容師さんの感性に任せて、物足りなければ徐々に減らしてもらう。この順番だと失敗しにくいそうです。
これ、薄毛のオーダーにもそのまま応用できるなと思いました。
「絶対にすくな」だと相手の手が縛られてしまう。でも「根元は残してほしい」「表面は触らないでほしい」みたいに範囲を伝えると、その中で工夫してもらえる。
禁止するより、範囲を伝える。この違いは大きいなと。
あとから足すことはできても、切った髪は戻せません。だから「少なめから始めて、足りなければ追加」が安全というのは、理屈としても納得です。
鏡を見るのが、こわかった
話を戻すと。当時は、切ってる最中もしんどかったです。鏡と照明がどれだけこわかったかは、別記事に詳しく書きました。
とにかく、美容室に行くこと自体が、薄毛を突きつけられるイベントでした。
治療を続けて、注文が変わった
それが、変わったんです。
長年治療を続けて、毛量がある程度戻ってきたら、美容室での注文が変わりました。
「すかないでください」を、言わなくなったんです。
代わりに言えるようになったのが、「こういう感じにしたいんですけど」。守りじゃなくて、やりたい髪型の相談。
自分でもびっくりしました。あんなに「減らさないで」しか言えなかったのに、今は普通に髪型の注文をしてる。
しかも今はパーマもかけてます。薄毛を気にしてた頃なら、パーマなんて発想すらなかった。髪に負担がかかることは、全部避けてたので。
「守る」から「楽しむ」に、モードが切り替わった感じですね。
注文できるって、けっこう幸せなこと
今になって思うのは、髪型を注文できるって、地味に幸せなことだなということ。
「こうしたい」と言えるのは、選択肢がある状態だからです。減らさないでくれ、しか言えないのは、選べる余地がないということでもある。
髪の量が増えたから、というより。守るだけで精一杯じゃなくなったから、注文できるようになった。
あと、担当さんとの関係も大きいです。薄毛のことを隠さず話せるようになったから、「これは無理」「これならいけます」と率直に言ってもらえる。
相談できる相手がいると、選択肢は増えます。ひとりで「すかないで」と言い張っていた頃とは、まるで違う。
「すかないでください」しか言えない人へ
もし今、美容室でそれしか言えない人がいたら。
わかります。僕もそうでした。恥ずかしいことでもないし、間違ったオーダーでもない。実際、薄毛なら量を減らさないほうがいい場面は多いので。
ただ、ひとつ提案があります。禁止事項だけじゃなく、理由も伝えてみてください。
「薄毛が気になるので、量は減らしたくない。でも重たく見えるのも嫌なんです」。ここまで言えば、プロは考えてくれます。すく以外の方法で軽く見せる手も持っているので。
それと、いつか注文が変わる日は来ます。フサフサにならなくても、です。
守るだけで精一杯だった状態から抜け出せると、髪型は楽しむものに戻ります。僕がそうだったので。
そのためには、隠すより向き合うほうが早い。カットでできることには、もちろん限りもありますけど。
「すかないでください」から「こうしたいんですけど」へ。この一言の変化が、僕には何よりの成果でした。
最後にひとつ。
今になって思うのは、あの頃の「すかないでください」も、悪い注文じゃなかったなということ。
必死に守ろうとしていた結果なので。恥ずかしい思い出でもないし、否定する気もありません。
ただ、あの一言に込めていた不安を、そのまま口に出せていたら。もう少し早く、今の状態にたどり着けたかもしれない。
言葉が短いほど、伝わらないことが増える。それだけの話だったなと思います。

