僕がタバコをやめたのは、髪のためです。
かっこいい理由じゃないんです。ただ怖くなっただけ(笑)
ある日お風呂で頭を洗っていたら、手に絡む抜け毛がいつもより多い気がして。流したあとの排水溝を見て「あ、やばい」って思った。
そのとき、タバコを吸う人は薄毛のリスクがあるという話を思い出して、ぞっとして。タバコと髪を天秤にかけて、髪を選んだ。それだけです。
あの瞬間のこと、今でもけっこう覚えています。お風呂の湯気の中で、排水溝の黒い塊を見ながら固まってた。たぶん、あれが何かのスイッチだったんだと思います。
当時は根拠なんて知らなかった
白状すると、当時はちゃんとした根拠を知っていたわけじゃありません。「なんとなく悪そう」くらいの感覚でした。
なので、あとからちゃんと調べてみたんです。そしたら、思っていた以上にはっきりしたデータがありました。
2024年にJournal of Cosmetic Dermatology誌に載ったメタアナリシスによると、喫煙歴のある男性は非喫煙の男性に比べて、AGAを発症するリスクが約1.8倍高いと報告されているそうです。8つの研究をまとめたもの、と。
えー、1.8倍?! けっこう差があるじゃないですか。
しかも、1日10本以上吸う人は、10本未満の人よりさらにリスクが高まることも示されている。量が増えるほど不利になる、ということですね。
「なんとなく悪そう」でやめた判断が、あとから数字で裏づけられた形になりました。当時の自分、悪くない勘してたな、と。
数字だけ、先にまとめておきます。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 喫煙経験者のAGA発症リスク | 非喫煙者の約1.8倍 |
| 1日10本以上吸う場合の発症リスク | 10本未満よりさらに高い(約2倍) |
| すでにAGAが進行している人の喫煙による進行リスク | 非喫煙者の約1.3倍 |
| 加熱式タバコのリスク | 紙巻きとほぼ同等(ニコチン摂取が続く限り) |
なんで髪に悪いのか
理屈のほうも調べてみたら、けっこう納得のいく説明が並んでいました。
まず、ニコチンには血管を収縮させる作用がある。頭皮の血流が落ちると、毛根に栄養が届きにくくなります。
それと、一酸化炭素。これがヘモグロビンと結びつくことで、酸素を運ぶ働きが妨げられる。栄養だけでなく酸素も届きにくくなる、と。
あと、喫煙による酸化ストレスがビタミンCを消耗させて、毛包の細胞にダメージを与える。その結果、髪の成長期が短くなって、細い毛のまま抜けてしまう。
そしてもうひとつ。喫煙者は非喫煙者よりDHTの濃度が高い傾向がある、という報告もあります。DHTはAGAの原因になる物質なので、ここは無視できないところで。
血流、酸素、細胞ダメージ、ホルモン。ルートがひとつじゃないのか、と。どれか一個ならまだしも、全方位から髪に不利という。
ただし、直接の原因ではない
ここは正確に書いておきます。
タバコがAGAの直接の原因かというと、そうではないそうです。AGAの原因はあくまで男性ホルモンと遺伝で、喫煙は発症や進行のリスクを高める要因、という位置づけ。
だから、禁煙したからAGAが治る、という話ではありません。ここを勘違いすると、あとでガッカリすることになります。
実際、僕も禁煙で劇的に何かが変わったわけではないです。あくまで、不利な条件をひとつ減らしただけ。
それと、これは調べ直して認識が変わったところで。すでにAGAが進行している人でも、喫煙者は非喫煙者より進行しやすい傾向がある、という報告がありました。オッズ比は約1.3倍とのことですが、そこまで大きな差ではなさそうです。ただ、本数(1日20本より多いか少ないか)による差は、進行に関してはそこまではっきりしなかったみたいで。
つまり「本数を減らせば安全」という単純な話でもない。減らすというより、やめるかどうか、という判断になるのかなと。
やめたらどうだったか
その日にスパッとやめました。何年も吸っていたのに、よくやめられたなと自分でも思います。
コツというか、僕の場合は「吸える場所に近づかない」が効きました。コンビニのレジ前で目をそらす、喫煙所に行かない。
最初の1〜2週間がしんどくて、そこを越えたら意外といけました。
つらかったのは、やっぱり食後とコーヒーのとき。「いつも吸っていたタイミング」が体に染みついていて、そこが一番きつかった。ガムを噛んだり、とりあえずその場を離れたり。小細工でなんとか乗り切りました。
で、抜け毛が劇的に減ったかと聞かれると、そこはよくわかりません。ちょうどAGA治療も始めた時期だったので、何がどう効いたのか切り分けられません。
ただ、「髪に良くないことをひとつ減らせた」という事実だけは残る。それでじゅうぶんかなと思っています。
禁煙のしんどさは、最初だけだった
これから禁煙する人のために、体感も書いておきます。
一番きついのは、最初の1〜2週間です。ここさえ越えれば、あとは思ったよりラクでした。
逆に言うと、そこを甘く見ないほうがいい。「意志の力でなんとかする」と考えていると、たいてい負けます。僕も気合だけでは無理でした。
効いたのは、環境を変えることです。吸える場所に近づかない。ライターも灰皿も捨てる。買える状況を作らない。
やめる決意より、吸えない状況を作るほうが早い。これは薬を続ける仕組み作りと、まったく同じ考え方でした。
あと、食後とコーヒーみたいな「セットになっている習慣」は、いったん引き離すのが効きます。食後すぐ席を立つとか、しばらくコーヒーを控えるとか。
何年も体に染みついた動作なので、正面から我慢するより、そもそも発生させないほうが勝率が高いです。
髪以外のオマケが、けっこうすごかった
これは完全に想定外だったんですけど。
禁煙して一番驚いたのは、自分がどれだけ臭かったかがわかったことです。
やめてしばらくすると、タバコの匂いに敏感になります。すれ違った人の匂いでわかるようになる。そこで「あ、昔の自分、これを周りにまき散らしてたんだ」と気づいて、けっこうゾッとしました。
吸ってるときは、自分では全然わからない。鼻が慣れてしまっているので。
で、それに気づいてからは、周りの目が少しやわらいだ気がして。気のせいかもしれませんけど、「臭くないかな」と無意識に気にしなくてよくなったぶん、気持ちがすごくラクになりました。
髪のために始めたことなのに、人からの見られ方まで変わった。これは完全にオマケでした。
そのあと食事も見直して、体重も10キロ以上落ちて。生活が丸ごと変わっていったのは、この禁煙がスタートだった気がします。
順番も良かったんだと思います。タバコをやめると味覚が戻って食事がおいしくなるので、そのまま太る人も多いらしくて。実際、僕も気をつけないとそうなりそうでした。
だから禁煙のあとに食事を見直したのは、結果的にちょうどよかったなと。
ひとつ変えると、次が変えやすくなる。生活習慣って、そういうところがあります。
加熱式ならいいのか、という話
最近は加熱式タバコや電子タバコに切り替える人も多いと思います。「それなら害が少ないのでは」と思う人もいるはずで。
調べたら、髪に関してはあまり期待できないようでした。
加熱式でもニコチンは含まれているので、血管収縮やDHT上昇のリスクは紙巻きタバコとほぼ同等、と書かれていて。
有害物質が少なくても、ニコチンの摂取が続く限り頭皮環境への悪影響は残る、と。
髪のことだけを考えるなら、切り替えではなく、ゼロにするしかないみたいです。ここは、ちょっと厳しい話ですけど。
タバコをやめようか迷ってる人へ
髪のためにタバコをやめるって、けっこうアリな動機だと思います。
健康のため、家族のため、という理由でやめられなかった人でも、髪のためなら動けることがある。実際、僕がそうでした。
かっこいい理由じゃなくていいんです。「怖くなったから」で全然いい。動機なんて、自分が動ければ何でもいいので。
ただ、これだけは繰り返しておきます。禁煙してもAGAは止まりません。原因が別のところにあるので。
不利な条件を減らしつつ、原因のほうにもちゃんと手を打つ。両方あって、はじめて意味があります。
「タバコやめたから大丈夫」と思って治療を先延ばしにするのが、一番もったいないパターンかなと。
自分の頭が今どういう状態か気になっているなら、そこは先延ばしにしないほうがいいと思います。僕はそこで動くのが遅かったので。
僕は今日も吸っていません。あの日、排水溝の前で決めたことを、なんとなく守り続けています。
思えば、あのとき「髪か、タバコか」という単純な二択にしたのが良かったんだと思います。
健康がどうとか、寿命がどうとか、そういう大きい話だとピンとこなかった。でも「髪が減る」は、当時の自分にとって一番こわいことでした。
自分がいちばんこわいものを天秤に乗せる。禁煙のコツがあるとしたら、それかもしれません。
みなさんの天秤には、何が乗りますか。

