お風呂の排水口に、髪が絡まってた。
「あれ、多くない?」
そのとき、僕は20代後半でした。まだそんな年齢じゃないと思ってたのに。手のひらに乗せてみて、ちょっと固まりました。
あの日の感覚、今でもはっきり覚えています。
そのとき何を感じたか
最初は「気のせいかな〜」って思ったんです。
でも翌日も。その次の日も。排水口を見るのが怖くなってきて。
鏡で頭頂部を確認したら、生え際がなんかおかしい。M字っぽくなってきてる気がする。気がするだけかもしれない。でも気になって仕方ない。
「ハゲてる? 僕、M字ハゲになってる?」
そこからもう、ずっとその考えが頭から離れなくて。
今振り返って思うのは、あの時期のしんどさは「わからない」ことだったなと。
本当に薄くなっているのか、気のせいなのか。誰にも確かめられない。鏡を見る角度を変えては、大丈夫だと思い込もうとして、また不安になる。
人に聞くわけにもいかないんです。「俺、薄くなってない?」なんて、当時は口が裂けても言えなかった。
だから、ひとりで抱えて、毎日鏡と排水口を見ては落ち込む。あの往復が、いちばん消耗しました。
とにかく皮膚科に行った
調べると「AGA(男性型脱毛症)」という言葉が出てきました。
当時はAGAクリニックなんてほぼなかったので、とりあえず近所の皮膚科に行きました。今みたいにオンラインで相談、なんて発想もない時代です。
正味、行くまでにけっこう迷いました。恥ずかしいし、大げさかもしれないし。でも、毎日ビクビクしているのに耐えられなくなって、えいやで行きました。
頭を見てもらって、「フィナステリドを飲みましょう」と言われた。
それがプロペシアでした。
診断名を告げられたとき、「AGA」ってはっきり言われて。
なんかもう、どん底に落ちた気分でした。20代でハゲ確定って言われているわけじゃないですか(笑)。当時は笑えなかったですけど。
ただ、そのあとの言葉で少し救われました。「薬で進行を抑えられる」と。
「え、薬で止まるんですか!」と、思わず聞き返した記憶があります。それまでは、薄毛はどうしようもないものだと思い込んでいたので。
とはいえ、そのときはまだ、これを何年も飲み続けることになるとは思っていませんでした(笑)
あの日、皮膚科のドアを開けたこと。
これが、僕の中でいちばん大きな分かれ道だったと思っています。
行かなかったら、たぶんずっと「気のせいかも」と自分をごまかしながら、時間だけが過ぎていた。AGAは進行するものなので、その間も静かに進んでいたはずで。
何より、あの毎日の不安から抜け出せたのが大きかった。ちゃんと手を打っている、という感覚があるだけで、排水口を見る恐怖はだいぶ薄れます。
恥ずかしさより、あの不安から逃れたい気持ちのほうが勝った。結果的に、それが正解でした。
タバコの話もしておきます
良くないことなんですけど、当時タバコを吸っていました。
お風呂での抜け毛を見て、調べていたら「喫煙は薄毛リスクを高める可能性がある」という話が出てきて。それを見て、ちょっとぞっとして。
髪とタバコ、天秤にかけたらもう答えは出ていたので、その日にやめました(禁煙と抜け毛を調べた記録)。
かっこよく決意したわけじゃないです。ただ怖くなっただけ(笑)
当時はイメージでやめたんですけど、後年ちゃんと調べたら、それなりの根拠があることを知りました。
タバコに含まれるニコチンには血管を収縮させる作用があり、一酸化炭素は血液が酸素を運ぶのを妨げる。その結果、頭皮に酸素や栄養が届きにくくなる、と。
それだけじゃなくて、喫煙者は非喫煙者よりDHTの濃度が高い傾向がある、という研究の報告もあるそうです。DHTはAGAの原因になる物質なので、これはなかなか無視できない話で。
2024年に発表されたメタアナリシスでは、喫煙経験のある男性は喫煙経験のない男性に比べてAGAの発症率が有意に高く、吸う量が多い人ほどさらに高かった、と報告されているそうです。
ただし、タバコはAGAの直接の原因ではなく、あくまで遠因という整理みたいです。禁煙したからAGAが治るわけではない。そこは冷静に見ておきたいところです。
それでも、自分から不利な条件を足す必要はないなと。当時の判断は、間違っていなかったなと思っています。
そこから、生活が全部変わった
プロペシアを飲み始めて、長年になります。
途中でデュタステリドに変えたり、ミノキシジルの内服を足したり。ミノキシジルの内服は国内では未承認です。サプリも食事も、いいと聞いたものは片っ端から試してきました。10キロ以上痩せたし(10キロ痩せたあとの記録)、禁煙もずっと続けています。
今思うと、髪をきっかけに生活が丸ごと変わったんだな〜と。
タバコをやめて、食事を見直して、体重が落ちて。髪のために始めたことなのに、体調まで良くなった。あれは完全に想定外のオマケでした。
薄毛に気づいたことが、結果的に生活を整えるきっかけになった。今となっては、そう思えます。
変わったことだらけなんですけど、唯一変わっていないのは「続けること」だけですね。
劇的な努力をしたわけじゃありません。毎日、淡々と飲んできただけ。歯磨きと同じで、気合もいらなくなりました。
かっこよくはないですけど、やめたことだけは一度もないです。
そして、その地味な継続が、いちばん効いたと感じています。特別なことをした人より、やめなかった人のほうが残っている。長くやってきて、そう思うようになりました。
写真を撮りはじめたのも、この頃
今もずっと続けている習慣が、ここから始まりました。
月に1回、頭の写真を撮ること。
きっかけは単純で、自分で自分の状態がわからなかったからです。毎日鏡を見ていても、昨日と今日の違いなんてわかりません。良くなっているのか悪くなっているのか、判断できない。
それなら記録を残しておこう、と。カメラで撮って保存しておけば、あとから比べられる。
当時は「そのうち役に立つかも」くらいの気持ちでした。まさかこんなに長く続けることになるとは思っていなかったです。
でも、これがいちばんの財産になりました。不安になったときに前の写真と比べられる、というのは想像以上に心を支えてくれます。データがあると、思い込みにブレーキがかかるので。
これから始める人には、本当に最初の1枚を撮っておいてほしいなと思います。過去には戻れないので。
当時と今では、環境が全然違う
振り返って思うのは、僕が始めた頃と今とでは、環境がまるで違うということです。
当時はAGAクリニックがほとんどなくて、近所の皮膚科に行くしかなかった。情報も少なくて、ネットで調べても怪しい話ばかり出てくる時代でした。
薬の選択肢も、今より限られていました。ジェネリックも今ほど普及していなかったので、費用も高めだったと思います。
それが今は、オンラインで家から相談できる(通院の形を比べてみた記録)。ジェネリックもあるし、情報もかなり整理されている。
ハードルの高さで言えば、当時の10分の1くらいじゃないでしょうか。あの頃の僕が今の環境を知ったら、うらやましくて仕方ないはずです。
だからこそ、今の人には「動かないのはもったいない」と言いたくなります。こんなに条件がそろっているのに、と。
当時は「20代なのに」と絶望していました。
でも今になって思うのは、あの年齢で気づけたのは、むしろ運が良かったということです。
AGAは進行するものなので、気づくのが遅いほど、守れるものが減っていきます。40代、50代になってから慌てて動く人もいる中で、20代で手を打てたのは、単純に有利でした。
当時は「なんで俺だけこんな早くに」と思っていたけれど、実際には「早く気づけた」だけだったんです。
同じ事実でも、受け取り方でこんなに変わるんだなと。
このブログについて
このブログ「カミログ」は、そんな長い記録です。
薬のこと、サプリのこと、食事のこと、パーマのこと。専門知識はないので、書けるのは実際にやってみた話だけです。
医者でも研究者でもない、ただの実践者の記録。でも、同じ悩みを持っている人には、専門書より役に立つ部分があるんじゃないかなと思っています。
あの日、排水口を見て固まった僕みたいな人に、少しでも届けばと。
あのときの自分に言いたいこと
最後に。
もしタイムマシンがあったら、排水口の前で固まっていた自分にこう言います。
「気のせいじゃないよ。でも、思ってるほど絶望的でもないよ」と。
薄毛は、気づいた瞬間が世界の終わりみたいに感じます。でも、動けば変わる部分がちゃんとある。そして、動くのが早いほど有利です。
今まさに、あの頃の僕と同じところにいる人がいたら。ひとりで抱えてる時間が、いちばんしんどいと思います。動けば、そこから景色が変わります。
排水口を見るのがこわい毎日は、動けば終わります。そこからが、本当のスタートでした。

