仕事でしんどい時期がありました。
会社で怒られて、落ち込んで、家に帰ってもそのことを引きずってる。そういう毎日が続いてた頃です。
で、ちょうどその時期に、抜け毛が気になりだした。
「これ、ストレスのせいだ」
そう思いました。というか、そう思い込みました。
しんどい時期と、抜け毛が重なった
あの頃は、けっこう参ってました。
仕事でミスをして、怒られて。「またやったか」と落ち込んで、家でも引きずる。翌日また会社に行くのが憂うつで、夜も眠りが浅い。
そういう時期に、お風呂の排水口を見たら、抜け毛がすごくて。
指に絡む量が、明らかに前と違う。手のひらに乗せて「え」となったのを、今でも覚えてます。
真っ先に頭に浮かんだのが、これでした。
「ストレスだ。ストレスで抜けてるんだ」
心当たりがありすぎたので、そこに直結しました。
今のこの状況が原因なら、仕事が落ち着けば戻る。そう考えました。というか、そう考えたかった。
今振り返ると、あれは思い込みでした。
でも、当事者としては、そう思うのが自然だったなとも感じます。
だって、目の前にわかりやすい心当たりがあるわけで。強いストレスがあって、同じ時期に抜け毛が増えた。この2つが並んでたら、結びつけるじゃないですか。
しかも、そう思ったほうがラクだった。
ストレスが原因なら、一時的なもの。仕事が落ち着けば元に戻る。自分の体質の問題じゃない。
そう考えると「深刻じゃない」ことにできる。
たぶん僕は、無意識にそっちを選んでたんだと思います。認めたくないものを、別の理由で説明しようとしてた。
結局、病院に行った
それでも、抜け毛は落ち着きませんでした。
仕事の状況が多少マシになっても、排水口の状態は変わらない。むしろ、じわじわ気になるようになっていく。
「ストレスのせいだと思ったけど、違うのかもしれない」
そこでやっと、病院に行きました。
恥ずかしさより、不安のほうが勝った。あのまま「ストレスだから」と言い聞かせ続けてたら、たぶんもっと先延ばしにしてました。
結果は、AGAでした。
ストレスは、直接の原因じゃなかった。ただ、あの時期にそう思い込んだおかげで、僕は病院に行きました。
勘違いが、結果的に動くきっかけになった。皮肉な話ですけど、そういうこともあるんだなと。
調べたら、ストレスは主因じゃなかった
今回、ちゃんと調べました。
まず、はっきり書かれていたのがこれ。
ストレスが直接AGAの原因になるという医学的根拠はない、と。あるクリニックの医師も「ストレスでAGAになりました、という相談はとても多い」と書いてました。
みんな同じこと思うんだな〜と、ちょっと安心しました。僕だけじゃなかった。
というか、たぶんクリニックの先生からしたら「またその話か」なんでしょうね。診察室で毎日聞いてるはずなので(笑)
AGAの原因は、男性ホルモンと遺伝的な体質です。ストレスでそこが変わるわけじゃない。
だから「仕事が落ち着けば戻る」という僕の期待は、根拠のない願望でした。
ただ、ここからが大事なところで。
ストレスと脱毛が完全に無関係かというと、そうでもないみたいで。
まず、ストレスで起きる脱毛は別にあります。休止期脱毛症とか、円形脱毛症とか。強い精神的ストレスや過労で自律神経が乱れて血管が収縮し、毛根に栄養が届かなくなる。すると成長途中の髪が一斉に休止期に入って、頭全体からごっそり抜ける。
これはAGAとは別物です。原因も、治り方も違う。
ちなみに休止期脱毛症は、原因が取り除かれれば戻るそうです。誘因の除去からおよそ3〜6ヶ月で脱毛自体は止まって、そこから毛量が戻るまでにはさらに数ヶ月〜1年ほどかかることもある、と。
戻るタイプの脱毛もあるんだな〜と。全部が進行性じゃない。
円形脱毛症についても調べました。長いことストレスが原因だと考えられてきたけど、最近の研究では直接的な原因ではないとされてるそうです。有力なのは自己免疫の関与、と。
ただ、自己免疫疾患の発症にはストレスも関与すると言われていて、まったく無関係とは言い切れない。ここも、白黒つけにくい領域みたいです。
そして、AGAの人にとっても無関係じゃない、と書かれてました。
すでにAGAの素因を持ってる人の場合、ストレスによる血行不良や睡眠不足が重なると、頭皮環境が悪化する。土壌が荒れた状態だと、AGAによるヘアサイクルの乱れがもっと加速してしまう、と。
原因ではないけど、悪化させる要因にはなりうる。そういうことですね。
あの時期の僕は、まさにこれだったのかもしれません。AGAが進行してるところに、ストレスで環境が悪くなって、両方が重なった。
2021年の研究が、けっこう衝撃だった
調べていて、いちばん驚いたのがこれです。
2021年にNature誌に載った、ハーバード大学(Ya-Chieh Hsu教授のチーム)の研究。マウスの実験で、ストレスが発毛を止める仕組みが解明されたそうです。
流れとしては、こうでした。
慢性的なストレスがかかると、副腎からコルチコステロンというストレスホルモンが出る。人間でいうコルチゾールに相当するやつです。
これが毛乳頭細胞に作用して、GAS6というタンパク質の分泌を抑える。
GAS6は、毛包幹細胞を休止期から成長期へ切り替える後押しをするタンパク質らしいです。スイッチというより、背中を押す係、というイメージだそうで。だからGAS6が減ると、毛包が休止期にとどまったまま、新しい毛が生えてこなくなる。
逆に、(マウスの副腎を外科的に摘出する実験で)コルチコステロンをなくすと、毛包幹細胞が活性化して発毛が起こったそうです。
うわ、そこまでわかってるのか!
「ストレスで髪が抜ける」って、ふわっとした話だと思ってました。でも、分子レベルで経路が特定されてるわけです。
ただし、これはマウスの実験です。人間でも同じように働くかは、これから実証が必要だと書かれてました。そこは正確に。
それでも、ストレスが髪に影響しうるという方向性は、はっきり示されたわけで。当時の僕の直感、まったくの的外れでもなかったのかもしれません。
AGAとストレス性、見分け方があった
今回いちばん実用的だったのが、この話です。
AGAとストレス性の脱毛は、進み方が違うそうです。
AGAは、数年単位で徐々に髪が細くなって、ゆっくり進行する。だから「いつの間にか薄くなっていた」と気づくことが多い。
一方、ストレス性の薄毛は、強いストレスを感じた出来事から約2〜3ヶ月後に、シャンプーのときなどにごっそり抜ける。明確なタイムラグと、スピード感がある。
このタイムラグ、けっこう大事なところで。「今しんどいから今抜けてる」じゃなくて、数ヶ月遅れて来る。
それと、頭皮の状態も違う。AGA単体では、強いかゆみや大量のフケを伴うことはあまりない、と。
あと、抜ける場所も違います。AGAは生え際や頭頂部に集中する。ストレス性は頭全体からまんべんなく抜ける。
これ、季節性の抜け毛のときも同じ話でした。全体か一部か。ここが分かれ目になる。
見分け方を表にしてみました。
| AGA | ストレス性の脱毛(休止期脱毛症) | |
|---|---|---|
| 進み方 | 数年単位でゆっくり | 出来事から2〜3ヶ月後にごっそり |
| 範囲 | 生え際・頭頂部に集中 | 頭全体からまんべんなく |
| かゆみ・フケ | 強い症状はあまり伴わない | – |
| 自然に治まるか | 治まらない(進行性) | 誘因が取り除かれれば治まる |
「一時的なストレスのせい」が危ない
調べていて、ドキッとした表現がありました。
「ただの季節の変わり目だろう」「一時的なストレスのせいだ」と自分に言い聞かせる正常性バイアスによって、治療の最適なタイミングを逃してしまう人は少なくない、と。
正常性バイアス。うわ、まさに僕がやってたやつだ。
心当たりのある理由を見つけて、それで説明できたことにして、動かない。しかも、その理由が「一時的なもの」だと、なおさら様子見に流れる。
あの頃の僕は、ストレスのせいだと思うことで、深刻さから目を逸らしてたんだと思います。
そして、その間もAGAは進んでた。ゆっくりだけど、確実に。
人間って、都合のいい説明を見つける天才だなと感じます。しかもそれが、自分を守るための嘘だと気づかない。
「今は忙しいから」「季節の変わり目だから」「疲れがたまってるから」。理由なんて、探せばいくらでも出てくるので。
それでも、思い込んだおかげで動けた
ここ、正確に書いておきたくて。
僕の思い込みは、間違ってました。ストレスはAGAの原因じゃなかった。
でも、あの勘違いがなかったら、僕は病院に行かなかったかもしれません。
「ストレスのせいだ」と思ったから、その状況を気にした。気にしたから、抜け毛の量を毎日見た。見てたから、落ち着かないことに気づいた。そして、やっと動いた。
きっかけなんて、正しくなくていいんだなと。
勘違いでも、噂でも、なんとなくの不安でも。動くきっかけになるなら、それでいい。
大事なのは、動いた先で正確な判断をしてもらうこと。僕の場合は、そこで「AGAです」と言われて、初めて正しい対処が始まりました。
自己診断が間違ってても、受診すれば修正される。だったら、間違ったまま動くほうが、正しく止まってるよりずっといい。
それに、あのとき「AGAです」と言われたことで、逆に気持ちが整理されました。
ストレスのせいだと思ってた頃は、仕事が落ち着くのを待つしかなかった。自分ではどうにもできない、という感覚があって。
でもAGAだとわかったら、やることが決まった。薬を飲む。それだけ。
原因がはっきりすると、対処もはっきりする。あの診断は、僕にとって不安の終わりでもありました。
ストレスのせいだと思ってる人へ
もし今、「最近しんどいから、それで抜けてるんだろう」と思ってる人がいたら。
その可能性はあります。実際、ストレスで起きる脱毛はあるので。
ただ、AGAの可能性も同じくらいあります。そして、この2つは自分では見分けられません。抜け方も、進み方も違うけど、渦中にいると冷静に判断できないので。
判断の目安としては、こんな感じです。数年かけてじわじわ、生え際や頭頂部に集中してるならAGAより。ストレスの出来事から2〜3ヶ月後にごっそり、頭全体から抜けてるならストレス性より。
ただ、これも参考程度です。両方が重なってることもあるので。
そして、いちばん言いたいのはここで。
「ストレスのせいだ」で止まらないでほしいなと。
その説明で納得してしまうと、動かない理由になります。しかも、待ってる間もAGAなら進行する。
僕は、思い込んだうえで動いたから間に合いました。もしあのまま「仕事が落ち着くまで様子を見よう」としてたら、今どうなってたかわかりません。
理由が何であれ、気になったら確認する。ハードルは僕の頃よりずっと低いはずです。
思い込みは、動くきっかけとしては悪くない。ただ、思い込んだまま止まるのが、いちばんもったいないです。
最後にひとつ。
あの時期、僕は仕事のストレスで抜けたと思ってました。でも今考えると、順番が逆だったかもしれません。
抜け毛が増えてることが、それ自体けっこうなストレスだったので。
落ち込む、抜け毛が気になる、もっと落ち込む。この輪の中にいると、どっちが先かなんてわからなくなる。
だからこそ、原因をはっきりさせる意味があるなと感じてます。わからないまま抱えてるのが、たぶん一番しんどいので。

